2005年10月1日
この日チョモこと平井の誕生日を祝う宴が予定されていた。
ただ、平井本人がこの日は仕事だったため、夜8時からという遅めのスタートだった。
そんなわけで俺は昼頃にノロノロと起きだすと、
のんびりとした昼下がりを過ごしていた。
そんな時モッチィからの連絡が舞い込んだ。「17時集合にしないか」と言うのである。
俺は時計を見ると15時半を少し回ったところ。1時間半弱か、まぁ間に合うだろう。
そう考えるとモッチィに返事を返し、早速集合場所へと向かう事にした。
集合場所にに到着したのは集合時間を5分過ぎた頃だった。
山道を使うことも考えたが、端っから高速を使ってなかったら
大幅遅刻は免れなかっただろう。
140km/hで飛ばしてきた甲斐があると言うものである。
…が、肝心のモッチィと筒井の姿が見当たらない。あるのは筒井のレガシーだけだ。
集合時間の変更をかけてきたのは向こうだと言うのに、だ。
当の本人たちが集合場所にいないってなこの現状。
いつもの事とは言え、俺は溜息をつきつつモッチィに連絡をしてみる。
……が、なかなか出ない。
140km/hで飛ばして来たてまえ、さすがにちょいとイラつきもするが、
桜の3人にそんなのはするだけ無駄だって事を重々承知の俺は、
粘り強くモッチィが電話に気づくのを待ちつづけた。
やがてモッチィが電話に出ると、彼の声の裏からは音楽がもれ聞こえてくる。
「麻生着いた?今TUTAYAにいるもんで10分くらい待っててや。
倖田來未のPVにはまっちゃって」
集合かけといてその時間に別の場所にいるってのもどうだ、
一報ぐらいはしてほしいものだろう。ってもまぁ、モッチィと筒井では仕方がない。
大幅遅刻の常習犯と言えば平井だが、
遅刻した時に音沙汰がないことに関して言えば、
この2人の方がよっぽど常習犯であることは、
あまり認識はされていないものの、ひそかにデフォルトだ。
俺の方としても、元々は早めに豊橋入りしてのんびりしているハラでいたため、
そのまま雑誌を読みつつ待っていることにした。
やがて2人が到着すると、まずフィットハウスへと足を運んだ。
筒井が平井のBDP(バースデープレゼント)に買ってきたヒップバッグに触発されて、
モッチィもバッグを見に行きたいと言いだしたのである。
しばらく店内をウロウロしたものの、
もともとメンズの商品があまりないフィットハウスではたいした収穫もなく、
俺達は次なる行動に移ることになった。
それは今夜の宿の確保である。いつもなら駅の近くの24h営業のサウナでもって
仮眠室に泊まるのだが、ここが驚きの造りになっているのだ。
まず2階に設置されている設備を挙げると、レジカウンター、ロッカールーム、浴室、
それに大きなTVが設置され、リクライニングシートが並ぶ休憩室、
その脇には何を売っているのか分からないがバー
…と言うよりはラーメン屋に近いようなカウンター……とこんな感じである。
これだけではどこの造りがおかしいのかわからないだろう。
こっからは俺達のいつもの行動を元に説明していこう。
如何にここがおかしな間取りか、をだ。
まずはサウナに入館していく。
そのサウナは小さなビルの2階、3階にあるのだが、
2階に上がり受付でまずお金を払うことになる。
1泊¥3000のところ割引券があれば¥2700だ。
しかも割引券の期限が切れていようが、人数分足りてなかろうが、
愛想のいい受付のおばちゃんに、フレンドリーに話し掛ければ
大抵の場合全員分の値段を割り引いてもらえる。
嬉しい対応だが、これも驚きにはかわりない。
しかしだ。
靴を脱いで中に入って行くと、
レジカウンターの奥がすぐにロッカールームになっていて、
なんと何のくくりも設置されていない。
店の入口からも、ロッカールーム奥の休憩室からも丸見えだ。
もっと言ってしまえば、浴室とそれ以外の部屋の間意外には壁がないのである。
その滑稽なほどにあけすけで、おおっぴらなロッカールーム
…って言うかロッカーゾーンで服を脱ぎ捨てると浴室へと向かう。
しかしその浴室への入口があるのはレジカウンターの裏側。
素っ裸になった俺達は入口の正面を横切って浴室に向かうのである。
入店してくる客からも、受付のおばちゃんからも、
俺たちが身を隠すすべはタオルが1枚だけである
脱衣所がそんな感じのつくりなのだ、当然男湯女湯なんてのはない。
アホかってぐらいに男が入る事のみを前提としたサウナなのである。
さあ羞恥の素っ裸行進を酔った勢いで気にせず敢行して浴室に入ると、
鏡やドライヤーが設置された一般的に言えば「こっちが脱衣所だろ」
ってな部屋をぬけて浴場へと続く。
まずは洗い場だ。体を洗うタオルは各蛇口のところに掛けっぱなしで、
どんなタイミングで交換しているかわからないようなやつを使いまわしである。
当然の様にボディーソープなんてものではなく、ふやけた石鹸しかない。
使い捨ての歯ブラシがあるのが逆に奇跡的であると言えよう。
体を洗い終わればいよいよ入浴だ。
長方形の浴場の1つの長辺が洗い場になっていて、反対側が浴槽になっている。
その両端には普通のサウナルームとミスとサウナが設置されているが、
俺達がまず入るのはジェットバスである。
そのジェットバスもそれなりに曲者で、足を踏み入れた瞬間
「あれっ?!」って言うぐらいお湯がぬるい。確実に40℃は下回っているだろう。
熱い風呂の方が好きな俺にとってはちょっと残念だが、
筒井なんかはそれなりにこの温度がお気に入りらしい。
そんなぬるめのジェットバスに腰を降ろしていくと、
底から噴き出した小さな泡が体をくすぐる。
勢いはないもののかなりの量の泡が噴出しているため、
その泡は全身を駆け巡っていくが、主にはケツの穴周辺に刺激を与えてくる。
そりゃ当然だ、俺達が座っている壁際の底からだって、遠慮なく泡が出ているからだ。
普通なら浴槽の外周は人が座るため、噴出し口は無いと思うのだが、
コイツはおかまいなしである。
しかもどういった流れでその泡が送り込まれているのかはわからないが、
その泡は体にあたるといやにひんやりとする。
給湯口から出てくるお湯ですら、すでに熱くはないのだが、
このぬるいジェットバスの大きな要因はこの泡にあるのだろう。
いつまで湯に浸かったところで体があったまることはないどころか、
まちがってもいくら長湯をしたってのぼせることはないのではないだろうか。
普通のサウナの方は入ったことがないのでわからないが、
ミストサウナの方も相当なもので、サウナの中で体に浮き出てくる水滴は、
単にミストの化身であって、汗であろうはずがない。
どこに入ったところで一様に感じるのは「ぬるさ」でしかないのだ。
そして風呂から上がると一般的に指す方の脱衣所で体を拭いて館内着に着替える。
館内着については言うまでもなく誉め様がないのだが、
バスタオルの方もやけに吸水性の悪い素材でできていて、
いつまでたってもさっぱりと体が渇くことはない。
あったまっていない体には辛いものがあるのは言うまでもないだろう。
館内着に身を包んだ俺達が次に向かうのは、その日の寝床だ。
2階の休憩室では常時TVがついているし、
ラーメン屋風のカウンターでは酔っぱらいが大声でくだを巻いている。
そんなわけで熟睡したいなら3階の仮眠室へと向かうしかないのである。
しかしその仮眠室、圧倒的にベッドの数が少ない。
ざっと30~50といったところだろうか。
駅も近いし、居酒屋やいかがわしいピンクの通りからも近いから、
たいてい俺達が行きつけのバーを出る頃にはすでに満杯状態になっている。
何度マッサージルームの診察台で寝た事だろうか。
そして3階は驚くほど暑い。冬でも若干の寝汗が必至である。
風呂であったまらない分の挽回のつもりだろうか。
ただし…エアコンによるその暖気は、暖かさを与えるかわりに
異常なまでの水分を奪い去っていく。
そしてそして、そのサウナにはまともな自動販売機がないのだ。
あるのは古びた食堂なんかで見かける冷水器(コップを下においてボタンを押すアレ)と、250mlぐらいの紙パックの自動販売機だけ。
どちらにしたって枕元に置いといて、
欲しい時にすぐに飲むってことができないのである。
こんなところでは熟睡することはおろか、逆に体調を崩しかねないのは
もう言うまでもなく伝わったんじゃないだろうか。
…と、そんなこんなで新たな宿として、健康ランドが浮上してきたってのは
誰の目にも当然の成り行きである。
むしろここのサウナを利用するようになってから、
すでに1年近くが経過している事の方が驚きかもしれない。
そんな風にして選択肢に上がってきた健康ランドは、
駅からちょっと距離があるものの、
距離にして4kmほどだからタクシーでもたいした金にはならない。
しかもパソコンでプリントアウトした割引券があれば、
1泊¥2200になって宿泊費が浮く分、割勘にしたタクシー代を入れても、
ほぼ同じ費用で1泊できるって算段なのだ。
それに健康ランドの駐車場に1台誰かの車を止めておけば、
帰りの分のタクシー代も省くことができる。
ってなわけで、俺達はレガシーのナビを頼りに、
プレサージュとの2台体制で健康ランドへと向かった。
健康ランドの駐車場にレガシーを置くと、俺達はメシにありつくことにした。
俺にも定番になりつつあるあんかけパスタである。
いろんなパスタに辛めのソースがかけられたメニューを各種取り揃えているのだが、
安くて量が多いってことで、夕飯には多様される店なのだ。
ただ安いし量も多いうえに、味だって不味いってわけじゃないのに、
この店に5組以上の客が入っているところは見たことがない。
俺なんかよりも前から利用しているモッチィたちであすらである。
客寄せが下手なのだろうか?
確かに裏道から入って行くと、どこが駐車場の入口かは容易に判断できず、
隣の工場に入ってしまいそうになるのは確かである。
裏口には一切の看板が立っていないのだ。
こうなると客寄せが下手と言うよりは、
客寄せなんかするつもりがないと考えた方が、妥当かもしれない。
メシをすますと俺達は喫茶店コメダへと向かった。
平井の到着までまだ30分以上の時間を持て余していたため、
コーヒーでも飲んでのんびりするのもいいんじゃないかと言う結論に達したのである。
コメダの駐車場に車をとめると、俺達はまずすぐ近くのセブンイレブンへと向かった。
向かったんだけど…
何をする目的でセブンに向かったのか、今となっては憶えていない。
それよりもよりインパクトの強い出来事があったからである。
俺達はこのメンバーでの集まりで、コンビニに入ると
必ずと言っていいほどある戦いが始まる。
戦いの歴史はまだ浅いが、俺が参戦するようになってからでさえ
富士登山の時までさかのぼるから、おそらくは1つの季節を越えてむこうから
行われている戦いになるだろう。
その戦いは言うなれば「チップス大戦」とでも銘打つことができるだろうか。
最初はプロ野球チップスで出たカードで勝敗を窺っていたらしい。
勝敗を決するのは、もちろん知名度も大きな要因となるが、
さらにはその時の俺達の中での話題性がさらなる戦果へとつながってくる、
要は時価の変動が大きいのだ。
富士登山の時の時価で言うと、
当時筒井が富士登山の為に購入してきたグラサンが、
中日の山井のグラサンにそっくりだと言うことで、山井のカードの時価が高騰していた。
そしていつからかその戦いにJリーグチップスも混ざり、
戦況は混乱を含みながらも勢いを増していったのだった。
最大の激化を見せたのはやはり富士登山のときだっただろう。
あのときはコンビニに寄るたびに各人がPチップスとJチップスを1袋づつ買い込み、
そのたびに争いの火蓋が切って落とされ、最終的に俺のプレサージュには
15袋近いチップスが散乱するありさまとなっていた。
そんな戦歴を持った俺達が足を踏み入れたセブンイレブンで、
俺は筒井から話にだけ聞いていたが、当時まだお目にかかった事のなかった
Pチップスの第三弾を発見した。
麻生:筒井さん、噂のPチップス第三弾がありますよ
筒井:おぅおぅ………?!!!Jチップスの第二弾じゃないかぁ~!!
セブンイレブンの店内に筒井の声が
こだまするんじゃないかという勢いで響きわたった。
筒井は「しまった」と言う表情で身を縮めると、
テレながらも満面の笑みでJチップスへと歩み寄っていった。
以前からPチップスの第三弾が出ていると言うことは筒井に聞いていたのだが、
俺が見つけたのは初めてだったため筒井に報告をしたのだが、
まさかPに釘付けの俺の視界の隣にはJの第二弾が姿を現していたとは、
この上ない不覚である。
しかしそこは俺達雑兵をとりまとめる筒井隊長である。
Pチップス第三弾を隠れ蓑にして俺の死角から攻め入ろうとする伏兵
「Jチップス第二弾」の存在をただちに察知して、
雄叫びでもって俺にその存在を知らしめてくれたのである。
とは言え、当の隊長は雄叫びに不覚を感じていた。
2度目の不覚とあってはそれもいた仕方ないだろう。
隊長はPチップス第三弾が出たときにも同じように雄叫びをあげていたらしいのだ。
それも俺やモッチィという戦友がいない自分の会社の売店で、
孤軍奮闘してしまったのだ。
会社の売店で敵の姿を視認した隊長は「おお~!!!」と
居もしない部下に敵の接近を知らせる雄叫びをあげたものの、
同行していたのは会社の先輩だ。
「どうした筒井」と不思議な疑問を返されて、あえなく撃沈してしまったのである。
その時の思いと今回の思いがダブルに襲い掛かってきては、
さすがの隊長と言えど萎縮してしまってもしょうがないと言うものである。
しかししかし、そんな隊長の無念を無駄にする隊員が居るはずもない。
俺達はそれぞれに126円を握りしめると、
意気揚揚とレジへ向かっていったのであった。
そんなやり取りの末一戦交えた俺達は、爆笑をともなった戦いをへて
ようやくコメダへと足を踏み入れていった。
コメダではどのぐらいの時間をそこで過ごしただろうか。
それぞれコーヒーを頼むと、
平井が仕事を終える19時40分が来るのを待つことになった。
そして平井からの連絡が届いたのが20時ちょっと前、
この分だと合流は20時半を回るかもしれない。
俺達は平井に近くなったらまた連絡をするように頼むと、
それまではコメダでのんびりとコーヒーを堪能することにした。
20時半頃、平井からの連絡を受けると、俺達は集合場所へと向かった。
その時俺達は、この日の主役の登場にテンションが高まっていくのを感じていた。
俺達がそれぞれに用意したBDPに平井がどんなリアクションを取るのか。
注目はそこである。
平井と合流したのは20時45分。俺達はまず平井を銭湯へと送り出した。
仕事上がりで作業服のままの平井は、まず風呂に入りたいと言っていたのである。
もちろん「20時半には集合できる」と言っていた平井が遅れて来たのだ、
俺達は「15分送れてきたんだから、その分風呂の時間削って出てこいよ」
と釘をさしておくことも忘れない。
俺達はその間、近くの雑貨屋で時間をつぶすことにした。
マンガの立ち読みでもしていればすぐの事だろう。
ところで、作業服で登場した平井を目の当たりにした筒井は
こんなコメントを残していた。
「いやぁ、チョモの奴ちゃんと働いてただなぁ。
ついさっきまで俺は実感できんかったよ。
またパチにでも行ってて遅れてくるって感じがぬぐえんかったからなぁ」
と言うのである。
確かに平井と言えば正直そんな感想をもたれるのも仕方がない気がする。
ここで少し平井の大学時代を簡単に紹介するとしよう。
まず大学に入るとすぐに学校には行かなくなった。
それでも始めの1年ぐらいはちゃんと大学に行ってはいたものの、
それでも週に3日くらいのものだったらしい。
そのうちモッチィとのつながりで丹羽やクマーチョ達と仲良くなると、
まず自分のうちには帰らなくなり、
丹羽かクマーチョ、モッチィの家に入り浸っていた。
俺が奴らと仲良くなったのは1年の終わりごろだったが、
大学の3年の頃平井の家に行ったとき、
目撃した部屋の状態がその行動を如実に物語っていた。
まずは部屋の荒れ具合である。フロア部分はほとんどがゴミで埋め尽くされ、
かろうじて足を踏み込むことができるのは獣道のような通路のみ。
後はテレビの前に人一人がようやく座ることができるくらいのスペースと、
寝床であるロフトだけなのだ。
さらには壁に貼られたカレンダーだ。
そのカレンダーは1999年5月のまま放置されていた。
俺達が大学に入学したのが99年の4月だから、
奴はそのカレンダーを1回しかめくらなかった事になる。
少なくともその状態を2年間はキープしつづけていたのだから、
逆にすごいと言えるかもしれない。
もし普通の人間がその立場なら、片付けずには居られなくなるだろう。
俺がそんな彼と初めて出会ったのはスキー・スノーボードサークルの旅行だった。
その時はほとんど印象に残っていなかったが、
その直後の後期試験の勉強でクマーチョの家に泊まったときのことを、
今でもありありと思い出すことができる。
クマーチョの家で小さなコタツを囲み、みんなは哲学のレポートと奮闘していた。
わけのわからない哲学について、
自分の考えを原稿用紙10枚にもわたって表現しつづけろ
という度が過ぎたレポートだ。
みんなは哲学の教科書を読みつつ、書き写しつつ
満身創痍の様相で原稿用紙を埋めていったが、
一人平井は違ったモノを原稿用紙に書き写し始めたのである。
それはなんと、怪しげな新興宗教が街頭で配っていた本だったのである。
教祖の考えや生き様、教団の教えなんかが書かれたハードカバーの本だ。
内容は霊魂がどうのとか、生まれ変わりがどうとかいう内容で、 怪しさが満開である。
そんな本から平井は、一言一句書き換えることなく原稿用紙にうつし始めたのだ。
しかも結果は合格。まじめに教科書を読みつつレポートを書いた
クピンを抑えての合格だったから、その印象はさらに強烈なものとなった。
そしてその後も数々のダメ武勇伝を築き上げてきた平井。
結局大学は中退してしまったし、
自動車学校でさえ一度は9ヶ月を越えてしまって中退している。
今でさえ平井の最終学歴と言えば「自動車学校卒業」だが、
それ以前は「自動車学校中退」だったのである。
そんな平井の生き様を、俺なんかよりも昔から見てきた筒井だからこそ、
平井がちゃんと働いているという実感が湧かなかったのも仕方がないと言えよう。
さて、マンガの立ち読みをしていた俺達に
平井からの連絡があったのはちょうど21時を過ぎたころ。
俺達は集合場所の駐車場へと戻り、いよいよBDPを渡す準備に取り掛かった。
それぞれが車からBDPの入ったビニル袋を手にして平井を取り囲む。
誰もがにやけてくる表情を抑えることができない。
そんな中まずはモッチィが口火を切ってBDPを平井へとたたきつける。
まずはみんなサブのBDPからだ。
モッチィのサブBDP、それはバスケットボールだった。
俺達の車にはそれぞれに何らかのボールが転がっている。
モッチィはサッカーボール、俺は野球のボール、筒井もバスケットボール。
みんな暇な時間には、体でも動かそうと公園に行ったりするメンバーだからである。
そんなメンバーに、日本海チャリ企画から1ヶ月半も経っても、
まだチャリが分解されたまま手付かずの平井にも
「早くまじってきやがれ」というようなプレゼントである。
そして次は俺だ。俺は平井との付き合いがこの中では一番短いため、
どんなものをプレゼントしたものかかなり悩んだ。
他の2人ならこだわりや好きな事があるから、まだ考えることができるのだが、
平井の普段の生活と言えば寝ているか、パチ行ってるか、漫画喫茶にいるか…
しか思い浮かばないのである。
そこで俺はBDPの2つにあるテーマを持たせることにした。
それは……
「脱ひきこもり」だ。
まぁ、特に家に引きこもってるわけではないにしろ、
もっと外に出ろってなテーマである。
そこでサブBDPは…街の路地裏なんかに置かれて、
無料配布されている風俗雑誌だ。
街で飲んだ時にヨッシーがよく見つけてペラペラ閲覧しているアレだ。
サブBDPはどんだけ相手に「おい!」って言わせるか、
要はウケ狙い的に用意しているわけである。
そんなわけで俺は、中身は無料配布の雑誌だが、
逆にラッピングにはこだわって、たいそう豪華な包装をほどこした。
ブルーのリボンをほどき水色の包装紙を剥がしていくと、
中からはダンボールに包まれた雑誌が出てくる。
まずは雑誌だということすら分からないだろう。
ダンボールの間を覗けば、ようやく中身が本であることが分かる。
そしてダンボールまで剥がして表紙を見たら風俗雑誌だ。
まぁ、実際プレゼントをもらうときなんてのは
異様なテンションに包まれてるから(俺達の場合は特に)
何にも分からず開けていったら… 「!!」ってな感じだろう。
そのBDPを見た平井は
「おぉい、こんなんどこにおいとくよぉ」と痛そうな笑顔を浮かべたながら爆笑した。
そして筒井からのサブBDP…、それは掌に収まるほどの大きさのものだった。
外観からではまったくもって予想がつかない。
モッチィのみたく丸くもないし、俺のみたく平べったくもない。
例えるなら冷奴ぐらいの箱型。
平井はその中身を開けていくと…「うぉ?……?」と不思議な声をもらす。
黒い箱にはオレンジで数字の「5」が書かれている。だがそれは箱の側面だ。
そのまま箱の正面を確認した平井は、笑いながら膝を折って崩れ落ちていった。
あまりに予想できないBDPが出てきて、脱力したのだろう。
中に入っていたBDP、それは「番長のピアス」だった。
巨人軍の番長・ 清原のピアスだ。
当然平井はピアスなんて物はしていない。
これを機にピアスをしだすってのも面白いが、
平井がそんなことをするはずもないだろうから、
マーチの装飾品のひとつとなるのだろう。
さぁ、いよいよサブBDPが出揃うと、今度はメインの発表だ。
ここは一番インパクトの強いモッチィのBDPをトリにもっていくため、
まずは俺からBDPを渡していく。
中身は無難に体脂肪計だ。年間で20kg増をやり遂げた平井には
これぐらいしか思いつかなかったのである。
ただ、それでもいろいろ考慮して、
体重計タイプのものではめんどくさがって乗りもしないかもしれないと思い、
両手で握るだけのタイプを選んでいた。
続いては筒井だ。前にも書いたが彼の選んできたものはヒップバッグだった。
当の筒井もヒップバッグを愛用していて、
外出するときは財布や携帯をそのバッグに入れている。
かく言う俺ももう1年ぐらいヒップバッグ的なポケットを利用している。
BDPのバッグの作りは筒井が愛用しているバッグと同じタイプなのだが、
2連になっている。 1個外すと筒井と同じような感じになるっていうすんぽうだ。
蛇柄的なデザインが平井とのアンバランスに笑いを誘ったが、
付けてみるとなかなかに映える。
モッチィが触発されてバッグが欲しくなるのもわかるってな逸品である。
そして最後はモッチィだ。彼が用意してきたBDPは外観からして異彩を放っている。
モッチィはがんばって背中に隠してはいるが、それでは収まりきらない。
そのいで立ちは刀を背負った忍者のようである。
そう、モッチィのBDPは棒状のものなのだ。しかも長さは1mを越える長尺である。
始め平井は釣り竿だと思ったらしいが、手渡されたBDPの袋を破いていくと、
次第に表情の驚きに拍車がかかっていった。
「うぉ、これはまさか?!」ってな声が漏れ、
全貌が見えずとも中身の正体にある程度の予測がついたらしい。
そのまま袋を剥ぎ取っていき、ついにその姿を目の当たりにした平井は、
爆笑しながらソレにしがみつくと、BDPを杖の様にしてうずくまり、
星空の天を仰いで笑いつづけた。
モッチィのBDPはそれだけのインパクトを誇っていたのである。
そのBDPとは、ゴルフのドライバーだ。
まったくもって誰もが予想しないBDPである。
しかしモッチィはおおまじめに選んできたらしい。
平井:おい、こっちがサブじゃないのぉ?
森 :なに言ってんだよ、間違いなくこっちがメインだろぉ
なんてやり取りがあったほどである。
しかもおおまじめなモッチィは、
そのBDPがもしかしたら筒井とかぶったんじゃないか?
と心配して、BDPを買った後すぐに筒井に電話をしたと言うのである。
森 :ちょう、チョモのBDP何買った?もしかしたら俺かぶったかもしれん
筒井:いや、かぶってないと思うけどな
森 :いや、ホント心配になってさ。何買った?
筒井:ヒップバッグ
森 :………っは?
筒井:だからヒップバッグだよぉ、俺が着けてるみたいなやつ。
森 :おぉおぉおぉ、よかったぁかぶっとらんで。
筒井:何買ったよ?
森 :いやぁ、ゴルフのドライバーだよ。
筒井:は…?
森 :ホントかぶったんじゃないかと思って心配したよぉ
筒井:いやいやいや、それはかぶらんよモッチィ!
と、こんな会話が交わされたというのだ。
モッチィの感性には驚かされるばかりだが、
これで来年以降平井のBDPに悩んだら、とりあえずゴルフクラブを1本選べば
なんとかなる、ってかむしろ来年は各々からゴルフクラブが手渡され、
BDPは3本のゴルフクラブなんてこともありえない話じゃないかもしれない。
さて、今回はここまで。
読み返してみたら、えらい長い超大作だったから何部作になるかも不明!
久々に書く気がするな↓
~次回予告~
「2005年平井BD(2) ~宴~」をお送り致します♪
最近のコメント