ここんとこ更新が滞り気味なんで、奥の手の蔵出し更新です。
こういうのは暇な時間がある頃に書いてたやつだから、長いし自分で読んでても
表現なんかが洗練されてる感があるんだよね。
読む側もこういうのの方が面白いんだろうけど、
奥の手なんで小出しにしていきます。
アクセス数が減ってきた時とか……先週更新できなかったせいか、
ここんとこ来客が減ってんだよね……。
まぁ、それはさておき、俺たち兎団が結成する前の話。
初めて兎団のメンバー4人で旅に出た時の話でございます。
今回はその第2回目。豊田を出発して岐阜のスキー場へ向かうところから。
どうぞ、お楽しみくださいな♪
オデッセイに乗り込むと、早朝なのをいいことに俺達は無料のバイパスで
名古屋まで向かい、そこから高速を使っていくことにした。
誰もが正味の睡眠時間は3時間そこそこだっただろう。
高速に乗るや否や早くも睡魔との熱い戦いを繰り広げた。
しかしこれからスキーだと言う興奮を武器に、大健闘を押し進めて行った。
みんなに一番心配されていた筒井だったが、彼でさえも
「俺はモッチィの運転じゃなきゃ眠らんよ」
と相変わらずの強気発言で皆にくらいついてきた。
しかし、そんな風に言われて納得いかないのはモッチィである。
「なんだそれ?俺の車じゃ助手席に乗ってようと睡眠率100%じゃないか」
と反論するが、その程度の反論は筒井につうじるはずもなく
「いやいやいや、顔は助手席にはないから」と返す刀で爆笑をさらっていく。
どうやらモッチィのオルティアに乗ってる時は常にシートを倒しているから、
顔は後部座席にある。
したがって、寝てしまってもしかたがないと言うのを主張したいらしい。
本当なら「シート倒さなきゃいいだろう!」とつっこむところなのだが、
モッチィ本人が一番爆笑してしまっているだけに、
反論しようにもほとんどその威力はなくなってしまっている。
そんな会話を交わしていると程なくして東海北陸道に入る。
時間はまだ6時を過ぎたぐらいだ。
空だってまだ明るくなってくる様子は見受けられない。
東海北陸道に入ると途中少し渋滞があったものの、
時間帯のせいかほとんど滞ることなく、高鷲まで足を進めることができた。
そこに至ってもまだ7時過ぎぐらいだったから、
スキー場について滑り出すのは、遅くとも9時にはならないだろう。
高速を降りるとやまびこロードに入り一路ホワイトピアたかすを目指していく。
東海北陸道に入ってしまうと、急にサービスエリアの類がなりを潜めてしまうため、
俺達は限界に近くなっていた尿意を解放するために、
道端のレンタルスキーハウスに立ち寄ることにした。
トイレ休憩意外には何の目的もなかったが、
そこでリフト券の引換券を安く手に入れることに成功し、
それならと2日分のリフト券を先に購入してしまうことにした。
もののついでに俺達はスキー場周辺の温泉について聞いてみると、
穴場的な温泉があると言って「ふたこえ温泉」を紹介してもらった。
周辺地図をもらうと俺達は再びスキー場を目指していく。
山道ということで若干凍結した部分はあるものの、
雪が積もっていることもなくオデッセイはノーマルタイヤで慎重に坂を登っていく。
スキー場の駐車場に着くとすでに駐車場の7割は車で埋まっていた。
おそらく半分より奥はゆうべから来て車で眠っていた連中だろう。
窓をシェードで覆っている車や、シートをフラットにしている車、
たんまりと布団を積み込んでいる車も珍しくない。
俺たちもはやる気持ちを抑えつつ、スキーの身支度を整えていった。
ウェアーに身を包み、ネッグウォーマーで首をガードし、帽子で頭と耳を隠していく。
スキーハウスに入るとやはり多くの人でにぎわっていた。
早朝とは言え土曜日なのだから当然だろう。
輪になって話をするたくさんのグループを縫うようにして進み、
俺達はついにゲレンデへと足を踏み入れて行った。
ゲレンデは刺すような眩しい朝日を受けてきらめき、
ゲレンデ全体が発光しているようにきれいに輝いている。
陽射しのせいかほとんど寒さを感じることもなく、
逆にフル装備では暑いぐらいである。
早速リフトに乗り込んでいくが、リフトに乗っている最中でさえ
寒いと感じることはほとんどなかった。
その分雪質はあまりいいものではなかったが、なかなかのコンディションだ。
リフトを降りるとまずは肩慣らしの1走目。
広くなだらかな斜面が続き、ボーダーには適度なコース難度。ご満悦な様子である。
ファンスキーの俺には多少物足りなくはあるが、
その分ジャンプやバックなどの小技を磨くには丁度いい傾斜かもしれない。
みんなが慣れてくればロングコースを滑る機会も巡ってくるだろう。
それまではのんびりと滑ることを堪能しよう。
どのぐらい滑っただろうか、中学の友達とスキーに行った時は
狂ったように回転数を上げて回数をこなして滑っているが、
ボーダーは1回ごとにボードの着け外しがあるし、
ペース自体のんびりしたものだったから、回数にすれば4回も滑った頃だったと思う。
それでも時間はすでに1時間以上が経過し、10時を回ろうとしていた。
今朝は起きてからずっと高速を走らせ、ひたすら睡魔との格闘に励んでいたため、
朝食もろくに食べていない。
名古屋に入る前に寄ったコンビニで買った肉マンやチキンが関の山である。
したがって、早くも俺達は空腹を感じ始めていたのも当然の結果だ。
これ以上滑っていると昼飯時を迎えレストランが混み始めてしまう。
かといってソレを回避して食べるとしたら、
14時ぐらいまではおあずけを喰らうことになる。
ゲレンデが名残惜しかったのは言うまでもないが、
睡眠不足の体が早くもダルさをかもし出したのも否めない。
俺達は早めに飯を済ませ、心機一転でスキーに臨むことにした。
レストランに飯を求めてスキーハウスに入っていく俺たち。
しかしまだ10時にもならないと言うのに1階のレストランはすでに満席だ。
うどんが食べたいと言うモッチィのリクエストを求めて2階へと行くと、
2階にも大きめのレストランが1つ、
そして麺類を売っているスガキヤみたいなのが1つ。
レストランの方も2階はそこそこすいていて席を確保することもできそうだが、
スガキヤの方を覗くと席はガラガラでしかもうどんも売っている。
ショボさはぬぐいようもないけど、それだけに値段もスキーハウスの飯にしては安く、
麺類とチャーハンのセットが1000円と言う安さだった。
俺達はスガキヤの方で飯を取ることにして席を確保すると、
早速食券を買い求めることにした。
モッチィリクエストのうどんはカレーうどんと天ぷらうどんがある。後はラーメン類だ。
俺はミソラーメンC(チャーハン)に、平井と筒井は天ぷらうどんCにしたが、
モッチィはカレーうどんCを選択した。
カレーうどんとチャーハン…。どうなんだろう、この組み合わせは?
天ぷらうどんとだってミスマッチだってのに、
カレーうどんではそのギャップはさらに大きいだろう。
モッチィは最後までカレーうどんライスのセットと迷っっていたが、
「プラス100円でライスがチャーハンになるんだし」
と結局カレーうどんCを選んだのだった。
食券を持ってカウンターに並ぶとまずジャーからよそわれるチャーハン、
そして麺類がトレイに乗せられていく。
やはり値段を考えるとなかなかの量があって割安感がいっぱいだが、
気になるのはお味の方である。
まずチャーハンを食べてみると、ジャーから出てきたばっかのくせに
この上なくパサパサしているが、味の方は普通だろう。
続いて麺。俺の食べたミソラーメンはカウンターに出されたときには
すでに息絶えていたらしく、席に戻る頃にはすでに伸びきっていた。
天ぷらうどんのスキルは食べてないからわからないが、
それ以上にカレーうどんの印象の強さに、
天ぷらうどんCの印象はかき消されていたのだろう。
そのカレーうどんはやけに汁気がなく、
べとべとしたカレースープにうどんが生物のようにのたうっていた。
モッチィのコメントではかなり味が濃かったらしく、
彼にはチャーハンがどんな味をしてるのかさえわからなかったと言う。
こんな感じに味の方は誉め様のない代物だったのだが、スキーハウスで安く、
たくさんの量を得られたことはそれなりの満足感を得ることができた。
筒井:そう言えば今日の宿は夕食付きなの?
麻生:おう、2食付きで6000円の民宿だよ
筒井:6000円は安いなぁ、飯は大丈夫かい?
麻生:問題ないら。年末にも同じような民宿泊まったけど、獅子鍋だったよ。
筒井:おぉ~、シシナB(獅子鍋)かぁ♪ナB(鍋)はいいねぇ、
宴にはもってこいじゃないか。
なんてったってこのスキー旅行、夜がメインだからな。
森 :おいおい、それはいつものことじゃないか。
麻生:前夜祭までやるしまつだからな。
ただまぁ、今日のとこもシシナBかどうかはわからんけどな。
ナB系の確率は高いだろ。
筒井:是が非でもナBであってほしいもんだな。
そんな話をしながら休憩していたが、
いつまでも椅子に腰を据えているわけにはいかない。
疲労は確実に蓄積されているのだ、気を抜いたら一発で睡魔の餌食である。
飯を食べ終えてトイレ休憩を入れると、俺達はさっさとゲレンデに戻って行った。
ゲレンデに戻ると飯を食べに行く前に比べて、あからさまに見える人の数が違う、
小一時間の間にずいぶん新しいスキー客がやって来たようである。
俺達は昼食前と同じ初心者コースへと向かう第2リフトで、
再度肩慣らしをしようと思ったが、リフトを降りてみると、ゲレンデは人だかりだ。
ボーダーにはターンするスペースも、人を縫うようなありさまになってしまっている。
しかたなく俺達はこのコースは諦めて第1クワッドに乗って山頂まで攻め込み、
中級コースを滑ってみることにした。
しかしリフトに乗ってしばらくするとあたりに霧が立ち込めだし、
山頂に着く頃には30メートル先ですら危ういような状況だった。
それでも、コースに出てみれば、人の数は初級コースの比ではないくらいに少ない。
勇み足の初心者集団が固まって右往左往している所もあったが、
人ごみの中を滑るよりはよっぽど快適だろう、と中級コースを堪能することにした。
しかし霧の中で滑るってのは予想以上に精神力を削られる上に、
霧は濃くなる一方、2時間も滑る頃にはもう1度休憩を挟むこととなった。
時間は13時を過ぎたところ。さらにはゲレンデ全体を覆う霧。
レストランは人で溢れ、席の空く気配はまったく感じられない。
仕方なく俺達は自販機横の壁にもたれかかると、座り込んで休憩を取ることにした。
しかし、今度こそ座ったとたんに尻が床へと根を張り始める。
ジュース1本飲む間に時間はあっという間に14時を迎えようとしていた。
体力と時間的に見て、最後のひと滑りをするにはもうぐずぐずしている暇はない。
俺達は気合で根っこを引き剥がすと、ゲレンデへと戻って行った。
霧の猛威も少し和らいで、ゲレンデの人の数も心なしか減っているようである。
俺達は15時前に上がろうと示し合わせると、
ゆっくり堪能するようにこの日のスキーを締めくくった。
スキー場を後にしたのは15時を過ぎた頃だったと思う。
宿は1泊2食で6000円と言う安い民宿を選んでいたため、
宿の風呂には期待が持てなかった。
そこで宿に向かう前に教えてもらった「ふたこえ温泉」に向かうことになった。
ガソリンも残りが少ないから、温泉の後には給油しておいた方がいいだろう。
山道を下っていくとT字路にぶつかった。
片方はインターへ戻る道、もう片方は鷲ヶ岳スキー場へと山道を行く道だ。
温泉に向かうにはどっちに行ったらいいのかわからなかったが、
俺はとりあえずインター方面にオデッセイを向け走ることにした。
その傍らで筒井が、レンタルスキー屋で手に入れた
スキー場の周辺マップを見始めるが、彼が言うには反対方向らしい。
それを聞いたモッチィも地図に目を落とすが、
彼は「戻っても道が交差してるだけで、つながってない」と主張する。
どうしたものかとも思ったが、ガソリンの残りも少ないからロスは極力避けたい。
そこで俺はオデッセイを停めると、自分の目で地図を確認して、
派閥を選ぶことにした。
地図に目をやると確かにモッチィ派の意見が正しいように思える。
わき道を使えばそんなに大回りなわけでもない。
俺はモッチィの意見を採用してインター方面に向かい、
途中からわき道へと入っていく道を選択することにした。
わき道に入っていくと傾斜はなだらかになったものの、道は俄然細くなってきた。
頼りはレンタルスキー屋でもらったスキー場の案内地図と
電柱に貼られた看板だけである。
地図に寄れば高速の下をくぐってすぐの所にあるらしい。
電柱の看板も残り800mを表示しているからあと少しで着くはずだ。
…しかし、行けども行けども高速が現れない。
800mなんてのもとうの昔に過ぎてしまっている。
さすがにおかしいと思った俺達は来た道を引き返し、
もう一度温泉を探してみることにした。
しばらく戻るとはるか上空に橋がかかっているのが見える。
えらく細っこく見えるが、位置的に見てあれが高速で間違いないだろう。
細く見えるのもそれだけ高い所に位置しているからだろう。
あんなものを目印にしていたら気づかないのも当然である。
高速に近づいていくと左手の山あいにホテルのような建物がチラッとのぞいている。
レンタルスキー屋の兄ちゃんは穴場だと言っていたが、
たしかにこれは穴場と言って間違いない。
看板だって電柱のそれ以外にはでておらず、出ている看板と言えば、
湯の花温泉と言う別の温泉だけである。
俺達は「ここまで穴場にせんでもいいだに」と言いながらさらなる細道を下っていく。
しかしそのどれもが山あいの温泉にたどり着くことはなく、
いずれも途中で行き止まってしまっている。
そのたびに俺達は細い道を引き返し、
ようやくの思いでふたこえ温泉にたどり着くことができた。
さすがに穴場だと言うだけあって駐車場には5台ぐらいの車しか止まっていないが、
建物の見た目はずいぶんときれいなもので、予想していたような民家チックなものではなく、健康ランドのような風体をかもし出していた。
俺達はさっそくオデッセイを降りると、建物へと入っていく。
宿泊施設も兼ねているようで、温泉のフロントまでは矢印で案内が出ている。
入っていくとまず靴箱と券売機があり、フロントにはおじちゃんが暇そうに座っている。
正面にはジムもあり色々なトレーニングマシンが並んでいる。
俺達は割引券を持っていたため、フロントで直接入泉料を払うと脱衣所へと入っていった。ハッピーなどに比べるとこじんまりとしていて、脱衣ロッカーも30個しかない。
それでも数が足りてる所を見ると、やはりここは穴場なのだろう。
しかもハッピーなんかに比べると狭い分きれいに掃除が行きとどいているようである。
浴場に入ると大きな浴槽が1つ、壁際には洗体所の蛇口が並んでいるが、
これも10箇所も設置されていない。
奥へ行くとガラスの向こうには露天風呂もあり、ちっちゃいがサウナもあるようである。
さすがに少ない蛇口にいきなり4人が滑り込むことはかなわず、
順番待ちをして蛇口があくのを待つことになった。
ようやく順番が回ってきてあたたかいシャワーを浴びると、
俺達はこの上ない幸福感に包まれた。
スキー場で冷えて疲れきった体に生気が戻ってくるようである。
前夜は筒井宅に宿泊だったから、そのすっきり感と言ったらこの上ない至福だった。
体を洗い終えた俺達はまず室内の浴槽に浸かる。
アルカリ泉質なのか肌にぬるっと温泉が絡み付いてきてそれがまた気持ちいい。
壁際からはジェットバスが噴出していて、
疲れて凝り固まった体を気持ちよくほぐしていってくれるが、
さすがにスキーの疲れにはたいした効果は望めないようだ。
ガラス越しに外の露天風呂を覗くと奥の方に打たせ湯があるではないか。
俺達は誘われるように露天風呂へと移動して行った。
さすがに外に出ると外気が肌を刺すように冷たいが、
火照った体にはそれもまた気持ちのいいものだった。
とはいえいつまでも外気の中をうろうろしていられるわけではない。
逃げるように露天風呂に浸かると、まず平井と筒井が打たせ湯に挑戦した。
打たせ湯は並んで2箇所設置されていたのである。
「あたあたた」平井が湯の勢いに圧されつつも打たせ湯の中に体を滑り込ませると、
筒井も並んで打たせ湯に身をゆだねる。
しかしお互いの打たせ湯の位置が近すぎるのだろう。
肩にあたったしぶきは互いに隣の人の顔面へと跳ね返っていく。
「おい、平井湯を飛ばすなってぇ」
先に文句を口にしたのは筒井だった。
そのまま応戦するために筒井も平井側の肩へと打たせ湯を当て始めた。
平井もそれには黙っておらず、平井も筒井側の肩に打たせ湯の位置を調整する。
しかし闘い慣れていたのは明らかに筒井のほうだった。
平井の跳ね返すしぶきは奴の脂肪に吸収されてしまっているのか何なのか、
筒井のそれと比べるとあからさまに脆弱だったのである。
そこで平井は湯船を抜け出すと、日陰に残っていた雪に目をつけ、
そこから雪合戦へと発展していく。
しかし雪をつかみ、そこからちぎっては投げちぎっては投げしていくうちに、
火照った手の中の雪はみるみる溶け出し平井の腕をつたうのであった。
もともと疲労困憊の俺たちだ。そんな争いに興じている体力なんか残されていない。
いつもの旅ならばこの戦いがどこまで発展していくのかってところなのだが、
今の俺達にはそんな余力は残されていないのである。
風呂から上がった俺達はしばらく湯上りの牛乳を堪能したり、
足つぼマッサージマシンを試してみたりとのんびり過ごした後、
いよいよ今夜の宿「民宿林」を目指すことになった。
地図によるとここからはまっすぐ一本道だし、向かいに学校もあるため、
今度は迷うこともないだろう。
オデッセイに乗り込むと筒井が「ゴングが鳴った」と宣言した。
睡魔との戦いのゴングである。
風呂上りの気の緩んだ所を一気に攻め込まれたようだ。
そんなことを宣言されたところで、俺たちもそれは同じ状況なのだ。
そうやすやすとKOさせるわけにはいかない。
1人でも犠牲者が出れば振り込め詐欺組織同様、
俺たちも芋づる式にやられ始めてしまうのだ。
そこで俺達は筒井に地図を手渡すと、彼にナビってもらうことにした。
来た道をひたすら戻り、インターの通りまで戻るとその角には学校が建っていた。
すなわちこの向かい側あたりに今日の俺たちの宿があると言うことだ。
俺達は看板を見落とすことのないように目を凝らしながら、
ゆっくりとオデッセイを進めて行った。
しかし学校を通り過ぎてしばらく行っても「民宿林」と言う看板は見当たらない。
あったのは「民宿丸十」という宿だけである。
地図が間違っていると言うこともないだろうから、
おそらくまたしても見落としてしまったのだろう。
喫茶店の駐車場でオデッセイの向きを変えると、
もう一度学校の方へ向かってゆっくりとオデッセイを走らせる。…が、やはりない。
「あっ!あれ林って書いてない?」
声を上げたのは平井である。さすが鷹の目をもつ平井である。
大学を退学したところでイーグルアイは未だ健在のようだ。
俺たちも平井の指すほうを凝視してみると、広い民家の庭の奥にある玄関、
その上に黒ずんだ木の表札が小さく掲げられ、
そこには確かに「林 なにがし」と言う名前が刻まれている。
民宿と言えば結構な割合で民家を改造して宿にしつらえられているところが多いが、
看板すら出してないってのはどうだろうか?
さすがに入っていって「予約した麻生ですけど」と言うには、
確証がなさ過ぎるってものである。
そこで俺達は向かいにある酒屋で聞き込み調査をすることにした。
酒屋に入ると早速聞き込みを始める。
森 :この辺に民宿林ってないですか?
酒屋:そこのはす向かいのがそうだよ。
森 :え?!……丸十って書いてありますよ。
そう、俺たちの目指す民宿は「林 なにがし」の方ではなく、
隣の「民宿丸十」という宿の方だったのである。
すんなり納得がいくわけもなく俺達は酒屋のおばちゃんを問い詰めたが、
この辺で「民宿林」といえばここしかないのだと言う。
納得はできないものの地元人の意見に反抗するだけの材料も持っていないし、
何より俺たちが手にしている地図も「民宿丸十」の位置を示している。
でもインターネットで見つけたときも、宿泊の予約の電話をしたときも
相手はすべて「民宿林」だったのである。
半信半疑ながらもしぶしぶ「丸十=林」の式を頭に叩き込むことにした。
そうなれば、宿の向かいに酒屋があるってのは俺たちには好都合である。
ちゃっかり19時半までやっていると言う情報を聞き出すと、
丸十に足を踏み入れていくことにした。
俺達は庭先に立って宿をしげしげと見つめる。
どこをどう見たって「林」の「は」の字すらうかがえない。
玄関の隣には擦りガラスの引き戸があり、そこにも『丸十食堂』と書かれている。
不安はあったものの俺達は中に入ってみることにした。
玄関を開けて「こんにちは~!」と声をかける。
「………」
何の反応も返ってこない。もう一度声を掛けてみる
…ってところで奥の方から人の気配が伝わってきた。
玄関の正面の奥の暖簾が揺れ、一人のおじさんが顔を出した。
麻生:予約した麻生ですけど…
おじさん:すいません…
おじさんは一言俺たちに詫びを入れると、また暖簾の向こうへと姿を消してしまう。
「え?!あのおじさん何かあやまらなきゃいかん事したか?」
筒井がいぶかしるが、そのまましばらく待つと
今度は背の曲がったおばちゃんが出てきた。
おばちゃん:はい、いらっしゃい。
麻生:ここって、民宿林でいいんですか?
おば:はいはい、ここが民宿林です。
森 :そとに丸十って…
おば:去年までは林だっただけどねぇ、
ヤゴウが丸十やったから看板が出来てきてみたら『丸十』やったんよ。
筒井:へぇ~、ヤゴウってなんっすか?
おば:うちは昔からヤゴウが『丸十』だったもんでねぇ。
筒井:………
うん、わかった。何かはわからんけど「ヤゴウ」のせいで民宿の名前が変わったけど、
宿の方がそれに対応できてねぇんだな。
そりゃ~客であるこっちはちんぷんかんぷでもしょうがないさ。
これ以上納得いく説明も期待できないから、深く考えるのはやめよう。
俺達は濡れたボードやブーツを玄関のストーブにかけて干し終わると、
説明してもらった部屋へと移動した。
もちろん部屋までの案内などというものは存在しない。
民宿に泊まる者、この程度でうろたえてはならない、このぐらいは予想の範疇である。
2階へと上がっていくと、障子がずらーっと並んでいる。
どうやらここの宿は部屋の入り口が障子らしい。
一番奥にあてがわれた俺達の部屋は障子が開いていて、
俺達の来訪を今か今かと待っているようだ。
他の部屋はまだチェックインしてないのか出かけているのか、
すべての障子が締め切られて電気もついていなかった。
そう言えば他の客はみんな常連だというようなことを、
おばちゃんが言っていたのを思い出す。
部屋の中を覗いてみると… 何と隣の部屋とは襖で仕切られただけである。
はっきり言って部屋と呼ぶことをはばかられるような客室である。
いやこの場合はやはり客室ではなく客間だろうか。
部屋に鍵なんかは付いてないだろう事は予想の範疇だったが、
まさか隣の部屋との「壁」が単なる「仕切り」でしかないなどとは思わなかった。
素晴らしいまでの信頼関係である。
さっき初めて会ったおばちゃんは、俺たちのことをすでに信用して、
俺たちが他の客の物を窃盗もしないし、
隣がお姉ちゃんでも夜這いもしないと信頼しているのだろう。
じぇなければ鍵を付けてください。他は常連かもしれないけど俺達は新米だぞ。
俺達が何しでかすかわからんのと同様に、
他の客もどこまで信用に足るのかなんて俺達にはわかんねぇんだから。
…と思わないでもないのだが、これはむしろ自分達のことを考えてよりも、
民宿のおばちゃんのことを考えての話だ。
俺達は貴重品なんて物は特に持ち歩いていない。
貴重品なんてのは財布ぐらいのもので、そんなものはポケットなり何なりに
しまっているから、おいそれと盗られる心配はない。
風呂にもすでに入ってあるから、貴重品を置いて部屋を空けることもない。
それ以外の荷物は着替えだけだ。男の着替えを盗む輩などいないだろう。
なにせ一番高価な持ち物であるスキーやボードのセットは、
こぞって玄関先に並べてあるのだから、
そんなセキュリティどうこうを今さら俺たちが気にしているはずもない。
それよかいつか、他のもっとタチの悪い客を泊めてしまった場合、
厄介事に巻き込まれるのはおばちゃん達なのだから、
もうちょっと警戒心を持った方がいいんじゃないかと思ったのだ。
まぁ、他人の心配をしていられるほど俺たちに体力は残されていない。
部屋にはすでに敷布団が並べられ、
かけ布団や毛布、枕などもたたんで枕元に置かれている。
そしてなぜかその並べられた敷布団の上、
しかもその中心にコタツが設置されていた。
田の字になって寝る4人の足が集まる中心部分、そこにコタツがあるのだ。
しかも布団の上に。これはこのまま寝ろって事なのだろうか?
動かすのも面倒だからたぶんそうなるだろうが、移動して置いておくスペースもない。
あまりに適当なベッドメイキングである。
その他に部屋にあるものといえば、灯油のヒーターとTVぐらいだ。
部屋の中だと言うのに息は白く凍り、
隙間風がどこからともなくさらに冷たい風を運んでくる。
これではあまりにも外に居るのとかわらな過ぎである。
直接雨風を喰らわないってだけだ。車の中の方がよっぽど温かいだろう。
しかたなく俺達はヒーターの電源を入れて窓にカーテンを引くことにした。
そこで気がつく驚愕の事実。
隙間風かと思っていたのは、そのまんま外気だったのである。
カーテンをひこうと思い、カーテンを手に取ると、
カーテンで隠れていた部分の窓が開け放たれていたのである。
しかもあっけにとられている俺たちにさらなる追い討ちがかかる。
唸りを上げたヒーターが早くも白煙を上げているではないか!
ぉぃぉぃおいおい、凍え死ぬぞ俺らは!
寒い中4人が入りきるのは到底無理なちっちゃなコタツに足だけつっ込んで、
あとは薄手の毛布でしのげってかい?
そんな心配が一瞬頭をよぎるが、
今はそれよりも煙を吐き出したヒーターの方を対処しなければならない。
いくら寒いとは言え、火を噴いたヒーターで暖を取るわけにもいかない。
慌ててスイッチに手を伸ばすと、
ヒーターは何事もなかったかのように通常の運転を開始した。
どうやら運転開始時の準備運動みたいなものだったようだ。
ほっと胸をなでおろしたが、あんな準備運動があってたまるか?
例えるならラジオ体操をする代わりに、ファイヤーダンスをするようなものだ。
民宿林、いや民宿丸十、侮り難しである。
てんやわんやはあったものの、俺達は荷物を部屋に落ち着けると、
さっそく向かいの酒屋に買出しに行くことにした。
この旅のメインだと言ってはばからない、今夜の宴の品を調達に行くためである。
しかしすでに筒井はつまみにと言ってスナック菓子を買いあさってきていたし、
前夜祭で残った焼酎もほぼ1瓶まるまる残っているから、そんなには要らないだろう。
…と思っていたのだが、いざ酒屋に着くと購買意欲に歯止めはかからず、
さらに3000円分の酒とつまみが追加されることになった。
宿に戻って夕食の時間を聞くと、いつでもいいとの事だったので、
すぐにでも食べたいと伝えた。
飲み物は向かいの酒屋ででも自分達で買って来いって話だったから、
持ち込みも当然OKである。俺達はとりあえずビールを携えると、食堂へと向かった。
食堂ってのは外から見えていた「丸十食堂」が
そのまま宿泊客にもあてがわれているらしい。
他の客の姿は一切見当たらなかったが、
食事の準備は20席ぐらいが準備されていただろうか。
献立はフライに千切りキャベツ、味噌汁に御飯、
そして野菜と味付けされた鳥肉がぶち込まれたすき焼き鍋が、
カセットコンロに乗せられていた。
一瞬それが目に入った時にはシシナBか?という期待がよぎったが、
中に見えるのは味噌か何かで味付けされた鶏肉である。
一般的なナBの類でもないし、すき焼きからはかけ離れている。
おばちゃんに調理方法を聞いてみると、
「火ぃ点けて混ぜればいいよ。このへんの料理やから口に合うかわからんけど」
と言う返事が返ってきた。
うぅ~ん、独特の民族料理のようだが、酒のつまみには丁度いいかもしれない。
コンロに火を入れると、肉に火が通るのを持ちつつ、
俺達は先に御飯にありつくことにした。
まずビールを開けて乾杯を交わすと、フライをおかずに御飯を進めていく。
茶碗1杯をたいらげても、まだ肉に火は通っていないようだ。
ビール嫌いな4人だから、ビールは1人グラス1杯程度しか買ってこなかったが、
さすがにこの状況ではビールが足りない。
つまみの方がまだ出来上がっていないのだ。
がんばればダッシュで向かいの酒屋に駆け込めるが、そこは疲労困憊の4人だ。
適当な性格の俺達は「あとは部屋に帰ってからでいいだろ、酒はたくさんあるし」
と箸を進めることにした。
ようやく出来上がった民族料理はしかし、
ビールがもっとあったらさぞかし酒のつまみになっただろうという味だった。
味付けした鶏肉を野菜と一緒に、火にかけただけだから味も単純なものなのだが、
もともとの肉の味付けが辛い味噌風味って感じで、おいしかったのである。
ただ、出来上がるまでにかなり御飯を進めていただけに、
全部をたいらげることはさすがに断念せざるを得なかった。
部屋にもどるとまたしても息は白く凍る。
さすがに食事中ずっとヒーターを入れておくことは躊躇われたからだ。
危ないということもあるが、それ以上に
灯油の残りが夜までもつかどうかが心配だったのである。
俺達はこぞってコタツにくすがりこむと、敷布団にねっころがった。
早く宴を始めて寝てしまいたいのだが、
おなかがいっぱいでとてもじゃないがすぐに飲めるような状態ではなかったのである。
かと言って宴は一応今回の旅のメインに据えっちゃってるから、
省くってわけにもいかないし、時間だってまだ19時を過ぎたぐらいだから
寝るのにも早すぎる。
いくら翌日は4時に起きてモーニングから滑ろうったって、
こんな時間に寝てしまっては、変な時間に目が覚めてしまい、
よけい体がきつくなってしまっては目も当てられない。
そんなこんなで、それぞれにTVを見たり、置いてあったマンガを読んだりして
しばらく時間を置くことにしたのである。
しかし時間を置くことに決めたところで睡魔が攻撃の手を休めるわけもなく、
コタツにくすがり横になるという非常に不利な体制で、
俺達は戦いつづけるはめに追いやられてしまった。
マウントなんかとられた日にはイチコロは間違いない。
俺達はお互いを牽制し合って時が満ちるのを待った。
この状況で特に打たれ弱い人物が2人、平井と筒井である。
隣り合って寝転がっていた2人は特に激しく牽制し合い、筒井が寝そうなものなら
平井:おい、その目は寝てるだろぉ?
筒井:寝てないよ、ちゃんと起きてるだろ。(目を閉じて笑顔を作りながら)
平井:なに目ぇつぶって微笑んでるよ。それじゃ観音様じゃないか。
と平井から攻撃をしかける。逆に平井が寝そうになれば
筒井:ひどいな平井、今寝てただろ?
平井:寝てないよ、ちゃんと起きてるって。
筒井:いやいや、それじゃスリーカウント取られるって。
平井:2.99で起きるぜ。
筒井:それ、2.99までは寝てたってことだろぉ?
と、筒井が攻撃を仕掛ける。
こんな感じでしのぎを削って俺達は命を永らえたのだった。
ようやく時間も20時を回り、腹具合も頃合になったところを見計らって、
俺達は満身創痍で宴を開始することになった。
宴と言ってもそれは前夜祭ほどの元気もなく、酒の量もあまり進まないまま、
つまみばかりに手が伸びていくようなありさまで、
正直何を話したのかもよく覚えていない。
かろうじて覚えているのは、スキーの最中にメールが来た
「ポカの結婚式のマツケンサンバをどうするのか?」
をちょっとネタにしたことぐらいだろうか。
それでも1時間半ぐらいの時間はその宴が続いていたようで、
寝るしたくを始める頃には時計はもう22時前になっていた。
窓の外を覗くと、しとしとと雨が降っている。
ゲレンデ状況が心配ではあったが、
俺たちが心配したって状況がよくなるわけでもない。
翌日は気持ちよく滑れることを願いながら、俺達は最低限の身支度を整えると、
落ちていくように睡魔のパンチにのされていったのである。
とりあえずはここまで、続きをアップできんのは週明けかな。
楽しみに待っていてくださいな★
~次回予告~
「兎団結成前のスノボ旅行3 ~2日目~」2日目の早朝スキーからお楽しみに!
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